国際学会にWeb参加しても盛り上がらないのはなぜか
医師の勤めの一つに、学会(正確には学術集会)に参加して最新の医学的知見を手に入れるというものがあります。
学会は、ひとつの会議場に何千人、何万人というその道の専門家が集結し、各々が得た最新の知見を紹介・共有したり、それらについて議論を行ったりする場です。
以前は現地参加のみでしたが、コロナ禍以降、インターネット配信によるWeb参加もできるようになりました。
自宅にいながら世界最先端の知見を得られるのなら、Web参加は何と便利でしょう。
また、Web参加にすれば参加費も数万円程度で済みますが、国際学会に現地参加するとなれば、参加費、航空券代、現地の滞在費など、諸々合わせて軽く50万円はかかってしまいます。
年に休日が数日しかない医師にとっては、往復の時間もばかになりません。
もはや、現地参加はやめにして、Web参加だけでいいのではないか。
お忙しい先生や、交通の便が悪い地域にお住いの先生からは、このような声も聞こえてきそうです。
しかし、国際学会にWebで参加するのと現地で参加するのとでは、得られる価値が大違いです。
通信環境が発達した現代では、どちらの方法でも得られる知見は大差ないにもかかわらず、です。
これはなぜだろうと考えていました。
オンライン飲み会で感じる物足りなさ
学会に限らず、みなさんもコロナ禍において同じような経験をしたのではないでしょうか。
一時期オンライン飲み会が流行りましたね。Zoomなどのビデオ会議システムを用いて、各々が自宅にいながらネット上で集まって行う飲み会です。
私も何度かオンライン飲み会をしました。
これならコロナ感染を広めることもないし、安心して楽しめると。
でも、そのあと行動制限が解除され、これまでみたく居酒屋で顔を突き合わせて飲んでいると、やはりこう思うのです。
オンライン飲み会はどこか盛り上がりに欠ける。やっぱり対面の方がおもしろい!
Web参加と現地参加とでは、得られる経験が桁違い
学会の話に戻りましょう。
国際学会にWebで参加するのと現地で参加するのとでは、
なぜこれほどまでに得られる価値が違うのか?
あれこれ考えた結果、両者で得られる「経験」の量が桁違いだからだという答えにたどり着きました。
一見、新しい知見を得るために学会に参加しているように見えて、
実のところ、私たちが求めていたのは現地参加することで得られる「経験」なのです。
それは、発表者や他の聴講者との意見交換であったり、異国情緒の見聞であったり、道中の紆余曲折であったり。
学会に現地で参加することには、会場での講演から新しい知識を学ぶという主たる目的の周辺に、医学と関係あるものにせよ関係ないものにせよ、あまたの「経験」が存在します。
Web参加の場合、そういったもののほとんどを経験することなく終わります。
だからこそ、現地参加することの意義は大きく、Web参加で講演を聴講しているだけでは物足りなさを感じるのです。
買い物も同様
何かモノを買う場合も同じことが言えます。
あなたは一見「30万円のブランドバッグ」を買ったようにみえて、
実はそのバッグそのものを手に入れたいわけではありません。
努力が成功に結び付いた記念としてバッグを買ったという満足感であったり、
なかなか手に入らないバッグを身に着けていることで得られる優越感であったり、
そういった感情を味わう経験に対しお金を払っている側面があります。
このような、本来そのモノ自体が持つ以上の価値のことを付加価値と言ったりもしますね。
私からすれば、お金さえ払えばあらゆるモノが手に入る現代では、
こういった付加価値こそが全てだと思います。
仕事も同様
仕事も同様です。
ほとんどの人にとって仕事をする理由は、自分が生きていくために必要な生活費を稼ぐことにあるはずです。
なので、ついつい「仕事をしてそれに見合う給料され得られれば十分。」と思いがちです。
しかし実際には、私たちが仕事に求めているものは給料だけではありません。
すなわち、その仕事を通して習得できるスキルや実務経験であったり、
上司や部下、顧客との関係から得られる承認や感謝であったり、
はたまた、難しいミッションを成し遂げる過程で得られる成功体験や逆境に屈さない姿勢であったり。
私たちは給料以外に数多くの報酬を仕事から得ています。
私たちが起きている時間の半分近くを投じて行う仕事に求めるものは、
給料のみならず、その仕事を通じて得られる「経験」であることも多いのです。
私たちはモノではなく、経験を買っている
こういったことを理解せずに、「とりあえずモノや情報が手に入ればそれでいいだろう」、「給料さえ渡しておけばそれで働いてくれるだろう」と思ってしまうと、
思いもよらぬしっぺい返しを受けることにもなりかねません。
相手が、モノやサービスそのものではなく、それらを通じて得られる「経験」を求めているということを忘れてしまうと、あなたの提供するものに対して対価を払おうというモチベーションが減ってしまうでしょう。
また、自分が本当にほしいものが「経験」であることを理解しないままに買い物を進めれば、そのとき買ったものは押入れの肥やしとなり、大金を投じたわりに得られる満足は少なく、自分はなぜこんな買い物をしてしまったのかと後悔することにもなりかねません。
逆に言えば、単なる小売業であったとしても、自分が提供するものを通じて相手にどのような「経験」を得てもらいたいのかを考えることができれば、同じモノを売ったとしても相手に提供できる価値はより大きくなるはずです。
自分に対しても、他人に対しても、その人が求めるモノ自体ではなく、
そのモノを通じてその人がどういった「経験」を得ようとしているのか
ということまで考えをめぐらせてみてください。
そうすれば、1万円で同じモノやサービスを買ったとしても、自分や相手が得られる価値や満足感はもっと大きくなると思いますよ。
最後までお読みいただきありがとうございます。みなさまの人生が彩りあるものになりますように。