トップダウン戦略 vs ボトムアップ戦略
本記事では、手持ちの投資資金をもとにポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)を組んでいく際に、個人投資家が取りうる作戦についてご紹介します。
初めに、本記事の内容をまとめた表をお示しします。
トップダウン戦略 | ボトムアップ戦略 | |
---|---|---|
重視するもの | アセットバランス | 個別銘柄選択 |
具体例 | 全世界株ETF+現金 | 個別株30銘柄 |
メリット | リスク・リターンの調整が簡単。 投資額が大きい場合でも投資先の選定が簡単。 | 自分がいいと思うもののみに投資ができる。 |
デメリット | 自分がいいと思っていないものにも投資することになる。 | アセットバランスが崩れリスク過剰になる危険あり。 自分がいいと思った投資対象が実際にはよくない可能性がある。 |
初心者への おすすめ度 | ★★★★★ | ☆☆☆☆☆ |
中級者への おすすめ度 | ★★★★★ | ★★★☆☆ |
【注釈】
アセットバランス:株式に50%、債券に50%など、それぞれの金融商品(アセット)に投資資金を振り分ける割合。
ETF:上場投資信託。ここでは≒インデックスファンドと考えていただきたい。
トップダウン戦略は、自分が取りたいリスクと期待するリターンに応じて、まずアセットバランスを決める戦略です。
最も簡単な例として、全世界株ETFと現金でポートフォリオを組む場合を考えてみましょう。
リスクとリターンを上げたければ全世界株ETFの割合を高め、リスクとリターンを下げたければ現金の割合を多くする。どれくらいの割合にするかは個々人により異なりますが、例えば全世界株60%+現金40%の割合にすると決めたら、その割合を保つように調整を行うのです。
個別銘柄の選定は不要であり、多くはインデックスファンド等のETFや投資信託を用いることになるでしょう。
大事なのは、自分が目指すリスク・リターンに応じた金融資産の配分にすることにあります。
ボトムアップ戦略は、自分がよいと思う(高いリターンが見込まれる)銘柄を中心にポートフォリオを組む戦略です。
例えば、これからはGoogleとTeslaとMicrosoftとAppleが有望だと考えたとして、それらの個別株を買いポートフォリオとする方法です。
トップダウン戦略のメリット・デメリット
トップダウン戦略のメリットは、ポートフォリオの調整が簡単なことです。
基本的にインデックスファンドのETFを用いるため、買う必要のある金融商品が少なくて済みます(最少の場合、全世界株1つでよい)。
また、数多くの銘柄に分散投資されたインデックスファンドは比較的リスクやリターンが予想しやすく、自分が望むリスク・リターンに近いポートフォリオを作りやすいでしょう。
一方、デメリットとしては、インデックスファンドを通して自分がいいと思わない投資対象にも投資することになる点です。
例えば全世界株ETFの場合、中国や日本の株式も含まれており、「政治的に好きじゃない中国の株なんて買いたくない。」「成長性の低い日本の株なんて持っていても無駄だ。」と思ったとしても、広く分散されたインデックスファンドを買うことで、自分のポートフォリオにも一部そういった株が含まれてしまうのです。
ボトムアップ戦略のメリット・デメリット
ボトムアップ戦略のメリットは、何といっても自分が期待する銘柄ばかりでポートフォリオを組むことができる点です。逆に言えば、「こんな企業やものに投資したくない」というものを買わずに済みます。自分の読みが正しければ、数か月後、数年後に他者より大きなリターンを得られる可能性を秘めています。
一方、デメリットとしては、個別株や特定の国・地域やアセットに偏ってしまい、予想外にリスクが高くなってしまう点です。
例えば、「これからはロシアが有望だと思ってロシアの企業ばかりに投資していたが、ロシアが戦争を始めたことで同国の企業の株式の価値が紙くず同然になってしまい、自分の資産も大きく損ねてしまった。」というような危険を生じかねません。
投資初心者にはトップダウン戦略がおすすめ
ここまで述べてきたメリットとデメリットから、投資初心者にはトップダウン戦略がおすすめです。
配分さえ決めれば買い付ける必要のあるインデックスファンドは多くても数個程度で済むため、「何を買ったらいいか」考えなくていいのは、初心者にとって投資の敷居を下げてくれるでしょう。
中級者にはアセットバランスに留意したボトムアップ戦略がおすすめ
経済の状況を見ながら有利なセクターに投資したい。
成長が見込まれる国の銘柄に投資したい。
決算書や財務諸表を見て、成長性がある企業や財務優良な企業に投資したい。
こんな感じの三度の飯より投資が好きな投資中級者には、アセットバランスに留意したボトムアップ戦略がおすすめです。
色々調べて自分のよいと思う投資対象を選んで投資するとして、ある程度ポートフォリオが固まってきた時点で、現金比率、金融商品(株式、債券、不動産など)、対象地域(先進国、新興国)といったアセットバランスを見直してほしいのです。
例えば、色々買い進めた結果、株式が多くて債券が少ないと思えば、少し債券を買っておく。米国株ばかりだと思えば、日本株や欧州株、新興国株も少し買っておく。
このように、自分がいいと思うものを買いつつも、たまにアセットバランスに偏りがないか見直すことで、ポートフォリオ全体のリスクが過剰にならないように注意するとよいでしょう。
おまけ
あなたがよいと思った銘柄は、本当に高いリターンをもたらしてくれるのか?
ボトムアップ戦術の注意点として、そもそも自分がよいと思っている銘柄が将来平均を上回るリターンをもたらしてくれるかどうかはわからない、ということがあります。これは、8割のアクティブファンドのリターンがインデックスファンドに負けてしまう点からも明らかです。
自信があるのはいいことですが、多くのプロを相手に自分が勝ち続けることができる!とは思わない方が賢明かもしれませんね。
極力売買回数を抑えるべし
売買による取引手数料は、着実にリターンを減らす「資産運用の敵」です。
ボトムアップ戦術で有望な銘柄を売買するとしても、極力売買回数が少なくて済むような(長期投資向けの)ものを中心にポートフォリオを組みたいところです。
機関投資家はトップダウン戦略を選ぶことが多い
これは個人投資家とは関係のない話ですが、何兆円規模のお金を動かす年金基金などの機関投資家の場合、トップダウン戦略を取っていることが多いです。
それはなぜか。
例えば1兆円をもってどこかに投資するとしましょう。
規模の大きな全世界株インデックスファンドを買い付けたとしてもさほど株価は動きませんが、トヨタ自動車がいいと思い同社の株を1兆円買うぞ!となった場合、自身の買いだけで市場に流通する株式を買い占めることとなり、その結果株価が急騰してしまうという不都合が生じかねません。
運用額が巨大になればなるほど、個別株などの時価総額の小さな投資対象への集中投資は難しくなり、自分がいいと思う投資対象を数多く見つけなければならなくなるという苦労が生じます。
よって、必然的に多くの機関投資家はインデックスファンドなどを通して金融商品への投資を行っており、個別株などの運用を行っている例は少ないです。
最後に
いかがでしたか。
この記事を読んでくれた方は、間違いなく三度の飯より投資が好きな投資家さんでしょう(笑)
私もそうですが、投資って凝り始めると、「どう見てもこの株は安い!」「この企業は伸びる!」みたいな変な自信が出てきますよね。(これが厄介)
すると、どうしてもインデックスファンドだけじゃ満足できなくて、色々個別株を買い漁っちゃうものです。
リスクを知った上で個別株に投資をする姿勢には大いに共感しますが、投資と長く付き合い、合理的に資産運用を行う側面から言うと、やはりリターンに見合わない過剰なリスクを背負わないようには注意すべきだと思います。
本記事が、皆さんが長く投資を楽しむための一助となれば幸いです。
最後に、本記事の重要事項をまとめて終わります。
- トップダウン戦略は、アセットバランスを優先し、個別銘柄の選定は重要視しない。
- ボトムアップ戦略は、有望な個別銘柄の選定を重要視する。
- 投資初心者には、ETFを用いたトップダウン戦略が簡明でおすすめ。
- ボトムアップ戦略を取る場合、時々アセットバランスを見直すべし。
最後までお読みいただきありがとうございます。
本記事を作成するにあたり、経済評論家 山崎元さんのコラムを参考にしました。
山崎さんのコラムでは、投資判断をする上での考え方がとても論理的に説明されており、思いがけない発見も多く、これから投資を始めたい方や、すでに投資を始めている方に大変おすすめです。ただし、いささか専門用語が多いのはご愛敬。
【注意】本記事は投資の勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定はご自身の責任と判断で行っていただくようお願いします。本記事に関するご質問・ご照会等にはお答えしかねる場合があります。本記事の記載内容は予告なしに変更することがあります。ご了承お願いします。