・夫/妻が自分のことをわかってくれない
・子供/部下が言うことを聞かない
・「そうなんですよ」がもらえない
本記事は、筆者が主治医として関わるなかで、学び共感した価値観や人生観について記したものです。
今回お話をうかがったのは、60歳代女性のBさん。
※Bさんのインタビュー前編はこちら→「最期まで自宅で」
原因不明の病に苦しむBさんは、専門外来でようやく自分の病気の正体がわかったものの、不安は晴れませんでした。
それはいったいなぜでしょう。
「病気の進行は仕方ない」と言われた外来
当初、Bさんが吐いたり下痢をしたりする原因はわかりませんでした。
専門の医師がやっている外来へ紹介され、特殊な血液検査も行った結果、ようやくBさんは難病をわずらっていると判明しました。
同時に、Bさんはその病気には有効な治療手段がないことも知らされました。
最初にみてもらった先生に症状のことを色々相談したとき、
「あなたの病気は進行しても仕方がない。もっと悪い人もいるんです。」
と言われ、とてもつらい思いをしました。
私の周りの人でも、母の難病のことを知っている人はいなくて、とても心細かったです。
Bさんは専門外来を受診し、医師は正確な評価を下しました。
Bさんはようやく自分の病気が何かを知ることができ、治療方針も決まったのです。
普通に考えれば、一歩前進、です。
しかし、この後Bさんは、より深い孤独と不安にさいなまれることとなりました。
いったい、何が問題だったのでしょう?
ひとつには、自分の病気に対して有効な治療手段がない、という厳しい現実があります。
しかし、問題はこれだけではありませんでした。
Bさんのケースでは、医師-患者関係において、
主治医として患者の感情に寄り添う態度が欠けていたのです。
Bさんは大きな不安や孤独を抱えていました。
そして、心の中ではそれに寄り添ってくれる声を求めていたのです。
医師はえてして「診療」を進めようとします。
すなわち、患者さんの症状に対し体のどこが悪いのかを調べ、科学的に原因を突き止め、それに応じた治療や助言を行います。
これは医師の仕事であり、多くの医師が「患者に求められている」と思っていることです。
しかし、ときとして患者が医師に求めるものは異なります。
子供がyoutuberになりたいと言ったら?
まったく違う話になりますが、子供の例を考えてみましょう。
ある日、自分の子供が「youtuberになりたい。」と言ったとします。
あなたはどう答えるでしょうか?
とっさに子供の進路を案じ、
youtuberなんて収入も不安定だし、そもそも売れるかどうかもわからないでしょ。
公務員とか会社員になって、こつこつ働いて安定した給料をもらう方がいいわ。
youtuberになるのはやめておきなさい。
こんな感じの返答になるのではないでしょうか。
親の立場からすれば、子供の幸せを望むもので、
幸せのためには収入が安定している方がいいですから、リスクの高いyoutuberはおすすめできないでしょう。
一方、子供の立場からするとどうでしょう。
そもそもこの子供は、将来の就職先や稼ぎ方の話をしたいわけではないのかもしれません。
話題のyoutuberを見て、「自分も人気者なりたい」、「人気者になって友達から認められたい」といった
憧れや承認欲求の話をしたかったのかもしれないのです。
信頼関係の構築←すべてはここから始まる
医師と患者の関係においても、親と子の関係においても、両者の立場はあまりに異なります。
これは変えられません。
だからこそ、自分の立場ではなく、相手の立場に立って考えることが必要なのです。
相手の立場に立つためには、
- 相手の置かれた状況を理解し
- その状況を自分の場合に落とし込み
- そのとき自分はどう考えるか
こういった思考プロセスをへる必要があるわけですが、
正直なところ、これは非常に面倒です。
今自分が見ている景色から、自分が持ち合わせている情報にもとづいて助言を行う方が、
どれだけ簡単で早くできることでしょう。
しかし、それでは本当の解決にはつながりません。
特に、抱えている問題が深刻な場合はなおさらです。
聞き上手こそが話し上手
具体例が長くなってしまったので、そろそろ結論をまとめましょう。
人は他人から相談を受けると、ついつい自分の価値観や経験に基づき、自らの枠組みで相手の問題を解決しようとします。
しかし、いくら手段としては正しくとも、相手の問題や目的を理解しないままに解決策を提案しても、本当の解決には結びつきません。
それどころか、相手にとって的外れな助言は、「自分のことを理解してもらえなかった」と、かえって相手の信用を失うことにもなりかねないのです。
相手の問題を解決したいと思うのならば、まずは自分が相手のことを理解する必要があります。
自分の主張を聞いてほしいという場合も同じです。
自分の気持ちをぐっとこらえて、まずは相手の話を聞いてみましょう。
相手を理解し、相手に理解されることで初めて、自分が言いたいことを聞いてもらえるようになります。
聞き上手な人こそが、相手の心をつかみメッセージを送り込むことができる話し上手となれるのです。
最後までお読みいただきありがとうございます。みなさまの人生が彩りあるものになりますように。
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中田のトークは、冷やし中華のごとく、のどごしよく頭に入ってきますね。
Bさんへのインタビュー記事の前編、中編はこちら。
【注意】本記事の内容は個別の症例に基づく個人の意見であり、全ての場合で同様の経過をたどるわけではなく、一般論を示すものでもありません。個々の治療方針については主治医とご相談いただくようお願いします。本記事掲載についてはインタビュイーの同意を得ていますが、個人情報保護の観点から個人を特定するような行為はくれぐれも慎んでください。 また、インタビュイーへの配慮から批判的なコメントは掲載承認できない可能性があります。