あなたの最終アップデートはいつ?~変化をためらう者は立ち遅れる~

昭和の治療を20年以上続けた結果、副作用で体が傷んでしまった患者さんの話

その患者さんは慢性疾患を患っていました。

すなわち、根治しない病気と闘い、20年以上にわたり治療を続けてこられたのです。

私と出会ったとき、その方の病状は比較的落ち着いてはいたものの、一目見ただけでも体が病気に蝕まれているのがわかりました。

これまでさぞ苦労されてきたのだろう。

治らない病気というのは困ったものだが、さらに困ったことに、その方は10年以上にわたり、最近ではあまり使わない副作用多めの「昭和の薬」を使用されていたのです。

どうしてこんな薬を飲んでいるのかと問うと、その方はこうおっしゃいました。

これまでの先生は、何もおっしゃらず同じ薬を同じように処方されてきましたので、言われた通りに飲んでいただけですよ。
病気もそれなりに落ち着いていたので、これでいいんだと思っていました。

嫌な予感がした私は、その方の全身の状態を調べ直してみると、持病の影響と同じくらい、薬の副作用で体の至る所が弱っていました。

今の時代、もっと副作用の少なくてよく効く薬はいくらでもあるのに、
どうしてわざわざこんな副作用の多い薬を続けていたのか。

私は残念でなりませんでした。

昭和の治療から令和の治療へ

その患者さんの治療を引き継ぎ、まず私がしたことは、昭和の治療を令和の治療に改めることでした。

信頼関係の構築に努めつつ治療の変更を申し出たところ、私の予想通り、その方は治療の変更を拒まれました。

先生のおすすめしてくれる話はわかるんですが、もう10年以上ずっと同じ薬を飲んできたので、今さら新しい薬に変えようって言われてもねえ(戸惑ってしまいます)。。。
それに、最初は病気の影響が強くてつらかったですけど、最近は体の調子もそんなに悪くないですし。
私はこれでいいんです。

よく聞けば、新型コロナウイルスのワクチンも打っていないというではありませんか。(複数の重症化リスクを有しており、医学的には接種した方が明らかにメリットが大きいにも関わらず、です。)

一見、この患者さんの病状は「落ち着いている」ように見えたが、その身を襲う「新たな病気の顕在化」という嵐は目の前まで迫っていたのです。

変化をはばむ「現状維持バイアス」

皆さんは「現状維持バイアス」という言葉をご存じでしょうか。

現状維持バイアスとは、変化や未知のものを避けて現状維持を望む心理作用のこと。

人間だれしも、自分の慣れ親しんだものがあると、それを手放したくないと思うものです。

もちろん、現状維持しておいて何も問題がない場合はそれでいいのですが、

現状や将来に問題が生じた場合は、手遅れになる前に早めに対応策を考え、方針や行動を修正していかなくてはいけません。

しかし、現状維持バイアスが強い人にとっては、そういった変化はとてもおっくうなものです。

そして、人は「臭い物に蓋をする」かのごとく、問題点から目を背け、あたかも何の問題もないかのごとく自分の慣れ親しんだ環境に居続けようとします

その結果何がもたらされるかは、賢明な皆さんなら言わずもがな、お分かりいただけるでしょう。

悪い未来が迫っていると思うなら、じっとしていてはいけない

特に現代において、世の中の変化は早いです。

  • 手のひらサイズのスマホがあれば世界中の人とリアルタイムでビデオ電話ができる。
  • AIに問いかければ、誰でも数分で最新情報をまとめた文章が得られる。
  • 世界的なコロナウイルスの大流行により、政府は国民の外出を禁止した。
  • ロシアのウクライナ侵攻は丸1年続いている。現地で行われている無差別な殺戮行為は、アメリカ同時多発テロの比ではない。

10年前のあなたは、こういった事態が起こる未来を予想できたでしょうか?

私はまったく予想できませんでした。
ほんの少し前ですら想像しなかった未来が、次々に現実となり我が身に降りかかっています。

それらは、自分にとって好都合のものもあれば、不都合なものもあります。

もし、自分に悪い未来が迫っていると思うなら、じっとしていてはいけません。

また、現状や将来に対して不満を言うだけでは、あなたの未来は何も変わりません。

自ら行動し、よりよい未来のために変化を求める者こそが救われるのです。

ただし、変化とはこれまで自分になかったものを取り入れたり、これまで慣れ親しんだものを捨て去る行為です。

変化の過程において、痛みは避けて通れないでしょう。

しかし、あなたの身に危機が迫っているのなら、
多少の痛みを伴おうとも、「今」変わらねばならないのです。

冒頭の患者さんは、私たちにこの大切な教訓を示してくれています。

昨日の常識は明日の非常識

これは医学や科学の常識ですが、一般的にも同じことが言えるでしょう。

さらに言えば、目まぐるしく変化するこの時代において変化しない方が不自然です。

変化を恐れてはいけません。

むしろ、変化を歓迎し変化を楽しむくらいのスタンスの方が、新時代の波に乗り遅れずに済むかもしれませんね。

現状維持を続け過去に取り残されるのか、変化を受け入れ未来に臨むのか。

私は後者でありたいと思います。あなたはどうですか?

後記

冒頭の患者さんのその後ですが、

受診される度に顕在化していない問題点について懇々と説明し続けた結果、ご家族の後押しもあり、その患者さんは迷いつつも治療薬の変更を承諾してくれました。また、何となく怖くて打っていなかった新型コロナウイルスのワクチンも接種していただけることとなりました。

治療薬を変更する際、一時的に病状が悪化し動けなくなったときもありましたが、最近では新たに追加した「令和の薬」が効果を発揮し、再び持病は落ち着きを取り戻しました。また、副作用の多い「昭和の薬」は半分くらいに減らすことができました。

ようやく、「昭和の治療」から「平成の治療」になったというところでしょうか。

まだまだ治療薬の調整が必要ですが、何にせよ、将来の問題や懸念が減っていくのはいいことです。

これからも、その方の素敵な笑顔が絶えないことを祈りたいと思います。

ところで、今回の記事を書いた後で、「同じようなことを書いた覚えがあるな。」と思い、過去の記事を見直してみました。

すると驚いたことに、半年前にほとんど同じようなことを書いていました。しかも、同じような患者さんの話に基づいて。

今がよければそれでいい?

実際、臨床医学に携わっていると、こういったケースにちょいちょい遭遇するものです。

似たようなことで苦しむ方が少しでも減るようにすべく、私の使命はまだまだ尽きないようです。

最後までお読みいただきありがとうございます。みなさまの人生が彩りあるものになりますように。

【注意】本記事の内容は個人の意見であり、一般論を示すものでもありません。個々の治療方針については主治医とご相談いただくようお願いします。

4 COMMENTS

西村洋子

「変化を受け入れ未来に臨む」

どちらかと言えば、現状維持に近い生活をしている私。

先日、図書館でたまたま『2050年の世界一見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ著 日本経済新聞出版 2023年7月刊)を借り、今半分程読みすすめたところです。
素人にもわかりやすく著述されており、「変化」なるものに改めて関心がわきつつあります。

具体的に自身の変化をどう具現化するのかは、今はわかりませんが、少なくとも「変化への覚悟」はしないといけないなと。

(いわゆる、自身が老いるとか、やがて命がなくなるとか)そういった変容の意味ではなく)
積極的変化を模索もし、勇気を持って臨んでいければいいなと。

何歳になっても変化を前向きにとらえ、志向していく生き方ができたなら、、。

そんな人生を送りたいものです。

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るろうに健心

西村様、コメントありがとうございます。
最近、老若男女色々な方面の方とお会いしますが、新しいものを取り入れ挑戦をやめない方は年齢より若々しく見えますね。
私自身、そこまでエネルギッシュではないので常に突き進んでいると疲れちゃいそうですが、
立ち止まりつつも、常に前を向いて変化を取り入れる姿勢は失わないようにしたいなと思います。

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西村洋子

「立ち止まりつつも、常に前を向いて変化を取り入れる姿勢」

立ち止まりつつも、、。

含蓄がありますね。
この10日ほどの間にお二人の方が癌になっていることを知り、私自身おちつかぬ日々を送っていました。

近しい方の思わぬ病に、衝撃を受ける。ご本人はどんなにかお辛いことか。
じっと座っていると、表面は平静に見えても、心の核が振動している。
手紙ひとつも書けない。

私はサイクリングや田舎の落葉掃除などをし体を動かしていると、「無」になっていることに気づきました。

今日、久しぶりに昔よく聞いたモーツァルトのピアノコンチェルトの第20番と第21番を聞きました。

ゆったりと時が流れ、やっと今日私は大切な「友」に手紙をしたためることができました。
立ち止まることにより、力が内面から湧いてくる。そういう時がありますね。

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るろうに健心

>西村様
コメントありがとうございます。
私も、本当につらいとき、友人とボードゲームなどをしていると無になれる時間があり、救われました。
一見前には進んでいないようでも、停滞ではなく次のステージに向けた準備であれば、それは有意義な時間だと思います。

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