昭和の治療を10年続けた結果…
先日紹介されてきた患者さん。
病状は落ち着いていましたが、昭和の治療を10年以上続けた結果、副作用で体じゅうがボロボロになってしまっていました。
どうしてこんな副作用の多い昔の治療を続けているのか。
そう思い、患者さんに聞いてみました。
最近はもっと安全な治療があるのですが、前の病院の先生からは新しい治療の提案はありませんでしたか?
もう10年近くずっとこのお薬飲んできたので、今さらほかの薬に変えるのは怖くてねえ。
それに、今の治療で病気も落ち着いていますし。
なまじ病状が安定していたがために、患者にとっても主治医にとっても「長く続けてきた治療を今さら変えるのか」という心理的抵抗が大きく、新しい治療への変更を阻んだのでしょう。
「現状維持バイアス」が招く問題の先送り
先ほどの例で見た、「長く続けてきた治療を今さら変えるのか」という心理的抵抗には、難しい言葉で「現状維持バイアス」という心理的効果がはたらいています。
現状維持バイアスとは、変化や未知のものを避けて現状維持を望む心理作用のことです。
・自販機でいつも同じジュースを買う。
・定食屋でいつも同じメニューを頼む。
・通勤のときにいつもと同じ道を選ぶ。
「いつもやっている慣れ親しんだこと」と「いつもやらない新しいこと」、この2つの選択肢があった場合、人は無意識に「いつもやっている慣れ親しんだこと」を選ぶ傾向がある、というわけです。
現状特に問題なく順調な場合、現状維持バイアスに従って同じことをし続けたとしても大きな問題はありません。
しかし、現状に何かしらの問題を抱えていた場合はどうでしょう。
今がよければそれでいい。
何か問題があるけど、まあいいか。
目先の問題に目をつむり、これといった解決策を講じることなく同じことをし続ける。
これはよくありません。なぜなら、問題が先送りになっているだけだからです。
仕事、家計、夫婦、親子、健康、政治、環境問題など、「今がよければそれでいい」という考えは至るところにはびこっています。
- 給料が上がる見込みはないけど、とりあえず今仕事はあるし、副業や転職活動はしなくてもまあいいか。
- 貯金はないし毎月家のローン返済もあって家計はカツカツだけど、とりあえずやり繰りできているからまあいいか。
- 最近妻との関係があまりよくないけど、特に文句も言わずに家事や育児もやってくれているしまあいいか。
- タバコとお酒が体に悪いのはわかっているけど、今のところ病気にもなっていないしまあいいか。
- 社会保障費が膨らみ続けていてそれに見合うだけの税収の伸びはないけれど、とりあえず国債発行しておけば何とかなるからまあいいか。
- 年々地球温暖化は進んでいて、一方で温室効果ガスの排出は減るどころかむしろ増え続けているけど、今すぐ地球が崩壊するわけじゃないしまあいいか。
今、行動しなかったツケはいずれ来る
今がよければそれでいい。
そう思い、今目の前にある問題を解決すべく行動を起こさないと、将来そのツケを被るのは自分自身。そして、実際にツケを被ったときには、もはや手遅れなのです。
何かを変えようとするのは、エネルギーを必要とするしんどいことです。
また、現状を変えようとすれば、一時的に痛みを伴うこともあるでしょう。
できることなら、慣れ親しんだ今の環境でそのままい続けたい。そう思うのは当然のことです。
それでもやはり、悪い未来が見えたのなら、じっとしている場合ではありません。
文句ばかり言って現状に妥協するのではなく、今、痛みを伴ってでも行動を変える必要があるのです。
あのときは大変だったけど、あきらめずに行動したから今がある。
5年後、10年後にこう思えるよう、未来志向で1日1日を丁寧に生きていきたいですね。
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行動を変えて新しいことをするのって、とてもエネルギーのいる大変なことです。
少しでもその負担を減らして新しく始めたことを継続するには、謙虚に、かつ柔軟な考えで取り組んでみるといいですよ。
最後までお読みいただきありがとうございます。みなさまの人生が彩りあるものになりますように。