仕事も老後も、好きなことで生きていく

本記事は、筆者が医師として関わるなかで、学び共感した価値観や人生観について記したものである。

今回お話をうかがったのは、90歳代女性のAさん(仮名)。

広い自宅にひとりで暮らし、小柄な体でちょこんとソファーに腰かける。後ろの本棚には難しそうな本がぎっしり詰まっており、話す前から博識さが伝わってくる。

90歳を超えてなお、多くの仲間と趣味に勤しむAさん。そんな自身のことを「おばけ」と呼ぶ彼女の人生観とは。

第二次世界大戦まっただ中の幼少期

小学生のとき、空襲を逃れるため田舎へ疎開したAさん。

とにかく食べるものがなくてね。毎日空腹に耐える日々でしたよ。最近の人は何かにつけて着飾ってばかりいるけど、私はそういうのはどうかと思いますね。

戦時中の貧しさを知るからこそ、現代の豊かさのありがたみを感じるのだろう。企業の広告にのせられて目新しいものを買っては捨てることを繰り返している、大量消費社会の我々に対するアンチテーゼかもしれない。

疎開したときに「司令塔」をしていた方が、最近までずっと幹事役となってくれて、そのときの仲間とともに毎年旅行や食事に行っていました。でも、ここ数年はコロナや病気のこともあり、行くのがおっくうになってしまいましたね。

半世紀を超えて集える仲間がいるとは恐れ入る。苦労をともにした仲間は、生涯にわたるかけがえのない財産だ。それでもときの流れには逆らえず、ひとり、また、ひとりと、仲間が天に召されていくそうだ。長生きは決して楽ではない。

趣味を仕事に

大学在学時、星を眺めるのが好きだったAさん。大学卒業後は、天文観測の趣味が高じて天文科学館で勤務。その後、高校教諭に。

義務教育を終えれば、男ならサラリーマンになって定年退職まで勤め上げる。女なら主婦になって子育てに勤しむ。そんな人生が大勢であった当時、好きなことを仕事にしていたとは、主体的かつ先進的である。仕事は一生のうちで大きな割合を占める。日曜日の夜に「明日から仕事かと思うと憂うつになる」という人も多いと思うが、好きなことを仕事にできた人は、それだけで人生半分は間違いなく楽しい

老後も新しいことに挑戦

高校教諭を退職した後、何か新しいことをしようといろんな趣味を試しました。どれもあまり長続きしませんでしたが、童謡を自作する趣味が高じて、今の活動を続けています。

15年間同人誌の執筆に携わるAさん。90歳を超えてなお、創作活動と情報発信を続けている。背骨は曲がれど、心と目線はまっすぐ前向きな、まさしく「おばけ」と呼ぶにふさわしいクリエイターだ。

好きなことで生きていく

Aさんは自分の好きなことを仕事や生きがいにするのが上手だ。最近でこそyoutubeなどのSNSプラットフォームのおかげでそういった選択をしやすくはなったが、そういった手段がなかった昭和の時代には決して簡単な選択ではなかっただろう。試行錯誤も多かったはずだ。行動力の賜物と言える。

好きなことだからこそ、持てる力を存分に発揮し、成果が上がり、継続できるという側面もある。その過程で報酬を得られ、仲間も増える。いいことづくめだ。

「そんなこと、仕事になるわけない。」

そう思う前に、まずは一歩踏み出し試してほしい。令和のこの時代、手段やビジネスモデルは無限に広がっている。誰しも、自分の好きなことを仕事にできる可能性を持っている。 Aさんがよいロールモデルだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。みなさまの人生が彩りあるものになりますように。

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